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第443号 1994(H6).09-10発行

PDF版はこちら 第443号 1994(H6).09-10発行

 

 

ファレノプシス(コチョウラン)の
安定生産にかかわる栽培ポイン卜

日本大学農獣医学部
花卉園芸学研究室
窪田 聡・米田 和夫

はじめに

 ファレノプシスは熱帯地方原生の着生ランであり,日本での生産は1960年代頃から始まっていた。その頃は,仕事花や趣味者を対象とした小規模な生産であったが,10年ほどで贈答品や一般消費者に受け入れられるようになり,生産量は飛躍的に増大し,コチョウランというだけで,高値がつき飛ぶように売れ,また逆に消費者の側でも価格が高いということで,贈答品としての利用価値を見出していた面もあった。

 しかしながら,バブルがはじけ景気が悪くなると,市場価格は低落し贈答品としての需要も少なくなった。また,たとえ景気が回復したとしても以前のような高値で取り引きされることは望み薄である。

 したがって,今後生産者が生き残って行くためには,従来よりも栽培技術を合理化して,安定的に生産できる体制あるいは技術を確立する必要があろう。

 筆者らは従来からファレノプシスの生育・開花に関する研究を行ってきた。今回,発表の機会を得たので,生産の合理化に役立てばと思い研究結果を報告する。

1.光管理

 光は光合成を通しての乾物生産や日長などによる光形態形成反応によって生育・開花に大きな影響をおよぼすことが知られているが,ファレノプシスについての光管理の研究は少ない。実際にいくつかの生産者の光管理の実態を調査すると,光強度が倍以上違うこともめずらしくない。そこで,異なる光強度下でファレノプシスを栽培し,生育・開花におよぼす影響を調査した。

 乾物生産で示される生育は明らかに光強度が強い50%遮光(最大400μmol/㎡/秒,照度として約23,800lx)注1)で促進され,植物体の糖含有率も50%遮光で高かった(表1)。

 そして,光処理3ヶ月後に33/28℃,28/23℃,23/18℃の温度処理を行うと,光強度が強い場合は花茎発生に充分な温度域(23/18℃)であれば花茎発生割合が高まり,花茎発生の限界温度域(28/23℃)であれば花茎発生時期が早まった(図1)。

 したがって,低温処理前にやや強めの光を当てて株の充実を図ることにより,花茎誘導の効率が高まるものと考えられる。

 ここで,光強度が強いといってもやはり限界があり,強すぎると葉焼けが発生しやすくなる。実験的には真夏に風通しを良くすれば20%遮光の寒冷紗1枚でも葉焼けは発生せず栽培は可能であったが,やはり葉色が薄くなり商品価値が低下することや,温室内気温が高くなり温度制御が難しくなる。そこで,生育・開花に最適と思われる光管理方法について光合成活性の面から検討した。

 試験区は常時50%遮光区,常時75%遮光区と75%遮光の光強度が一定水準を下回った場合にメタルハライドランプを点灯して補光した補光区の3段階である。その結果,いずれの試験区においてもファレノプシスの光合成パターンは二酸化炭素(CO2)を夜間に吸収するというCAM型注2)を示した(図2)。

 そして,常時50%遮光区あるいは常時75%遮光区では昼の光強度が低下すると夜間のCO2吸収速度が明らかに低下した。一方,補光区では昼の光強度がほぼ一定に保たれているため,夜間のCO2吸収は安定的に推移し,常時50%遮光区と75%遮光区よりも高く推移した。すなわち,昼の光強度によって夜間のCO2吸収が制限されるのである。

 その理由は,夜間に吸収されたCO2は細胞の液胞内にリンゴ酸として蓄積され,その蓄積量は液胞の容量によって規制される。そのため,昼間の光強度が弱いとリンゴ酸から炭水化物への移行量が減少し,前日の夜に蓄積したリンゴ酸が次の夜になっても細胞内に残存することとなる(図3)。そして,次の夜に吸収できるCO2の量は細胞内のリンゴ酸の限界蓄積量からリンゴ酸の残存量を差し引いた量となるためである。

 一般的なCAM型でないC3,C4植物では,光照射期間中にCO2吸収が行われるため,光合成速度が最大になる光強度を簡単に求めることができる。しかし,本種では光照射時期とCO2吸収の時期が分離しているためCO2吸収に最適な光強度かこれらのデータから求めることはできない。そこで,昼の光量とCO2吸収量を測定値から積分して求め,両者の相互関係について示した(図4)。

 その結果,昼の光量が8mol/㎡/日までは,CO2吸収量は直線的に増大するが10mol/㎡/日を超えると一定に推移して増加しないことがわかった。すなわち,本種の光合成を効率的に行わせるためには9~10mol/㎡/日注3)の光を当ててやれば良いことになる。

 一方,従来のように寒冷紗を常に被覆する方法では晴天日には昼の光強度が強くなりすぎる場合があること,時刻や天候によって外部の光強度が弱い場合には必要以上に遮光することとなり,充分な光量が確保できないことなどの問題がある。すなわち,昼の光強度をある程度抑え,1日の光量を確保するには,遮光の程度を時刻や天候に合わせてこまめに調節する必要がある。これを実現するには須藤ら(1991)が提案している方法を導入する必要がある。

 温室に50%遮光と20%遮光の寒冷紗を2層組みで設置し,それぞれ開閉できるようにし,これを組み合わせて0%,20%,50%,60%(20%と50%寒冷紗2枚同時被覆)の4段階の遮光率を選択できるようにする。そして,温室内光強度を目標値(約400μmol/㎡/秒)になるように外部光強度の変化に伴って最適な寒冷紗の組み合わせをコンピュータによって制御する。

 筆者らも実際に測定した光強度のデータからシミュレーションした結果,晴天日では光強度は目標値近くに抑えられ,曇天日では従来法に比べて多くの光量を確保できることがわかった。すでに,この方法は一部の生産者にも取り入れられており,良好な成績をおさめているようである。

2.灌水管理

 従来,本種は灌水を多くすると根腐れが多発するといわれ,灌水を控えることが多かったが,最近では灌水を多くして管理する事例が多くなっている。実際,筆者が生育・開花におよぼす灌水管理の影響について調査した結果,生育・開花は灌水開始点をpF2.0に管理した場合に明らかに促進された(表2)。

 根の生育は灌水方法の影響をほとんど受けておらず,いずれの管理でも生育は良好であった。したがって,本種の栽培にも底面給水法が適用できると考えられ,筆者らが現在検討中である。具体的には3.5号の鉢にミズゴケを1/3程度入れ,そこにロング(14-12-14,100日タイプ)を所定量施用し,その上に植物をミズゴケで植え込み,鉢を底面給水マットの上に置くだけである。

 この実験はまだ4カ月程度しか経っていないため開花については明らかでないが,生育は非常に良好であり,1カ月に1枚の割合で新しし、葉が展開してくる。生育に好適な施肥量は鉢の種類によっても異なる(この理由については後述する)がロングで0.5~1.0gの範囲と思われる。

3.施肥管理

 すでに,各種培地内養分含量におよぼす灌水・施肥方法の影響については,須藤ら(1990,1992)が報告しているが,筆者らもミズゴケ内の養分含量におよぼす灌水・施肥方法の影響について独自に検討した。その結果,培養液を連続施用しても培地内の養分含量が施肥量に比較して少なく推移した。

 当初は,単純な測定ミスかとも思われたが,この実験に供試した鉢が鉢壁面から多くの鉢内水分を蒸発させる素焼鉢であったため,素焼鉢に肥料成分が移動したのではないかと考えた。そこで,培地内の養分の動態におよぼす鉢の透水性の影響について実験を行った。

1)ミズゴケから素焼鉢への水分と養分の移動

 素焼鉢からの水分蒸発量を測定するために,素焼鉢にミズゴケを入れ,灌水後素焼鉢上面を覆た鉢(上面被覆)と,覆わない鉢(対照)を設定した。その結果,上面被覆の水分蒸発量は対照の約80~90%あり,水分のほとんどは素焼鉢壁面を通って蒸発していた(図5)。したがって,素焼鉢内のミズゴケ中の水分は灌水後に水平方向へ多く移動していると考えられる。

 そこで,実際に培養液を施用して素焼鉢への養分の移動について検討した。その結果,液肥1回施用後,硝酸態窒素はpF1.0の時点で素焼鉢に施用量の約半分が移動した(図6)。その後pF2.0までに施肥量の約80%が素焼鉢へ移動し,その後ほぼ一定に推移した。

 すなわち,素焼鉢ではプラスチック鉢を利用したときのように培地内に肥料成分が濃縮する(須藤・篠田,1990)ことは起こりにくいものと考えられる。

 従来,素焼鉢は鉢壁面からの水分蒸発にともなう気化熱により,鉢内の培地温度が低下することが知られていた(田中,1984)が,養分の多くを鉢壁へ移動させる性質をあわせ持つことが明らかとなった。したがって,素焼鉢のような鉢表面が多孔質なものと,非多孔質なプラスチック鉢などでは,本種の生育に好適な施肥量は,大きく異なることが予想されたので,次に生育におよぼす鉢種類と施肥濃度の影響について検討した。

2)生育におよぼす鉢種類と施肥濃度の影響

 展開葉数は素焼鉢(未使用の鉢を供試した)とプラスチック鉢ともに,施肥濃度が高くなるほど増加したが,いずれの施肥濃度においても素焼鉢よりもプラスチック鉢で多かった(表3)。

 落葉数には,差は認められなかった。展開葉面積は素焼鉢よりもプラスチック鉢で大きく,素焼鉢では施肥濃度が高くなるほど大きくなったが,プラスチック鉢では,175ppmで最も大きくなった。落葉面積はプラスチック鉢でやや少ない傾向にあった。

 根数は鉢種類,施肥濃度ともに差は認められなかったが,総根長はプラスチック鉢では施肥濃度が高くなるほど短くなった。したがって,生育に好適な施肥濃度は,素焼鉢では350ppmでも不十分であり,プラスチック鉢では175ppmが好適であると,判断でき,鉢種類によって異なっていた。

 本実験条件のもとで素焼鉢よりもプラスチック鉢で生育におよぼす施肥の効果が顕著に現れたのは,培地温度などの影響よりはむしろ,すでに示したように素焼鉢のミズゴケ内の養分が施肥2~3日後には素焼鉢壁へ移動し,ミズゴケ内の養分量が無施肥とほぼ同じ程度まで減少していたことが主な原因であると考えられる。

 従来,生産者の施肥管理方法は市販の液肥を1,000~2,000倍に希釈し,これを灌水代りに施用している場合が多い。この施肥方法は,素焼鉢栽培では鉢内の養分含量がほとんどなくなるごとに施肥を行うこととなり,素焼鉢の特性にあった施肥管理方法といえる。

 しかし,プラスチック鉢栽培では鉢内に養分が蓄積しやすく,濃度障害などが発生しやすい環境となるため,素焼鉢栽培よりも施肥濃度を低くするかまたは,一定の間隔で施肥と灌水とを組み合わせた管理が必要になるだろう。この結果はファレノプシス栽培だけでなく,その他の一般植物の鉢物栽培にも適用できるものと考えられる。

 以上,ファレノプシス栽培における光管理と灌水・施肥技術について述べたが,今後一層の合理化を図るためには,新しい開花誘導技術などの開発も必要であろう。

注1)植物生育を論じる場合,人間が感ずる明るさの単位すなわち照度(lx)よりも,光合成有効光量子束密度(μmol/㎡/秒)で表示することが適切である。自然昼光(日中の全天放射)で1,000lxの時,光量子束密度は16.8μmol/㎡/秒に換算される。

注2)CAM型光合成をおこなう植物の多くは熱帯あるいは乾燥地帯原生のものである。昼間の高温と乾燥条件に耐えるため,気温の高い昼間は気孔を閉じて蒸散を抑え,気温が低下する夜間に気孔を開きCO2吸収と蒸散をおこなっている。そして,夜間に吸収されたCO2は細胞内の液胞に一時的にリンゴ酸として蓄積され,昼の光エネルギーを利用してリンゴ酸からデンプンに合成される。

注3)日長を12時間とした場合,日の出から日没まで常に12,400~13,700lxの太陽光を当てれば実現できる。

引用文献

●須藤憲一・篠田浩一,1990,ラン栽培培地内の養水分状態におよぼす灌水施肥方法の影響,野菜茶試花き部年報,3:60-63

●須藤憲一・中村浩美・篠田浩一,1991,鉢花の遮光方法の改善,野菜茶試花き部年報,6:72-76

●須藤憲一・伊藤秀和・篠田浩一,1992,ラン栽培培地内の養分量の予測,野菜茶試花き部年報,5:80-82

●田中宏,1984,原色花卉園芸大事典,鉢とコンテナ栽培,p.138-147,塚本洋太郎監修,養賢堂,東京

 

 

水稲流入施肥法の普及のために

チッソ旭肥料株式会社
技術顧問 草野 秀

はじめに

 今年の本誌4月号に流入施肥法の全般について記述した。その後実際に普及,利用される現場から多くのご意見,疑問等を頂いた。それらにお答えすることも含めて,普及や利用しようとする場合に,具体的にまた理論的にも理解を深めていただくほうがよいと思われる事項について補完的に述べてみたい。

 なお,現在流入施肥に利用されているのは,当社のあさひポーラス及び類似のN社の泡状易水溶性化成肥料の2社製品だけであるため,ここではあさひポーラスについての諸事項の記述とする。

 また,4月号では流入施肥は追肥に利用するのが合理的とも述べており,ここでも主として追肥への利用を前提に述べてみたい。

1.追肥用として慣用の化成肥料とあさひポーラスの違い

 流入施肥を推奨する際に,従来県等の指導指針に示されている追肥用のNK化成肥料等に替えてあさひポーラスを導入しようとする場合,素直な疑問として出てくるのは,NK肥料には無くてあさひポーラスに含まれている硝酸態窒素,燐酸,硫酸根及び3要素成分の構成比等であろう。これらはあさひポーラスを利用しようとする場合に,それなりの意義やメリットが必要なことを意味する。そのお役に立つため,それぞれについての既往の知見を整理し,対応の仕方等をまとめてみた結果は次のとおりである。

1)硝酸態窒素の追肥施用の意義

 水稲の追肥用NK化成には硝酸態窒素は含まれていないが,あさひポーラスには窒素成分16%の内2.5%が硝酸態窒素となっている。通念として水田では硝酸態窒素の肥料は溶脱と脱窒があるので不適とされ,利用されていない。

 このため,あさひポーラスも硝酸態窒素分を差し引いた13.5%で施肥窒素量を計算するのがよいなどの説も出ている。しかし,溶脱・脱窒の理論と実際は基肥施用の場合は正しいが,追肥に施用の場合は必ずしも適当でないことは,識者の間ではよく理解されており,ここではその知見をまとめてみた。

 “水稲に対する硝酸態窒素の施肥”に関する今までの研究成果では,次の知見が明らかにされている。(ほぼ原文のまま)

①山崎伝(北陸農試)1):多収穫農家は水稲に硝酸態窒素を吸収させているようである。

②山崎伝(鳥取大農)2):水田において,利用率が劣ることは硝酸態窒素にとって不利な面と言えるかも知れないが,その吸収が根の活性維持に貢献するとすれば,アンモニア態窒素よりも量を増して施用することによる損失は補われて余りがあると考えてよいと思う。

③石塚喜明(北大農)3):水耕法により硝酸アンモニアを窒素源とした場合,水稲は生育初期にはアンモニア態窒素を,後期には硝酸態窒素を相対的に多く吸収する。

④石塚喜明・田中明(北大農)4):水耕法によれば,栄養生長期にはアンモニア態窒素がより良く,生殖生長期には硝酸態窒素がより良いようである。

⑤熊沢喜久雄(東大農)5):還元的にならない土壌では硝酸態窒素もアンモニア態窒素と同様に十分に吸収され利用されるし,また生育後期の様に根が土壌中に張り巡らされた時期の追肥においてはこれら両者間に吸収率,肥効の差は認められなくなる。

⑥清野馨(北陸農試)6):分げつ期の追肥では,硝酸態窒素の場合はアンモニア態窒素よりも稔実歩合が高く,もみわら比,窒素のもみ生産効率を向上することは共通的に認められる。(第1表参照)
 穂肥で比較的低濃度で田面水灌注する方式は,硝酸態窒素の施用効率を一段と高め,アンモニア態並にする方策のひとつと考えられる。

⑦川口桂三郎(京大農)7):日数の経過した状態の水田土壌では硝酸塩還元量は減少する。

⑧坂上行雄・松原弘一郎・吉松敬祐(山口農試)8):生育後期の水稲は生育初期ものに比べて,生理的にまた土壌培地の状態から硝酸態窒素を吸収しやすい状況にある。また,水稲に対して硝酸態窒素は窒素源として,また酸素の給源として働く様である。
 硝安区の水稲はアンモニア区のものに比べ窒素の籾生産能率が大であった。

⑨諸岡稔・葛西善三郎(九州農試・京大食科研)9):水耕培養で幼穂形成期に与えた硝酸態窒素とアンモニア態窒素の水稲による吸収と移動を検討し,硝酸態窒素区はアンモニア態窒素医より籾収量は多く,収量構成要素では登熟歩合が高く籾千粒重が重いこと,15Nの吸収率は各時期ともアンモニア態窒素区が硝酸態窒素区より約10%高いこと,窒素,燐酸含有量はアンモニア態窒素区に多く,珪酸・石灰・苦土・鉄・マンガン・亜鉛含有量は硝酸態窒素区に多く,加里含有量は両区に差がないこと等を認めた。(第2表参照)

2)燐酸の追肥施用の意義

 燐酸は光合成などの中間生成物で,ATPとして植物体内エネルギー伝達等に重要であり,一般に植物の生長,分けつ,根の伸長,開花,結実を促進することが知られている10)。土壌中ではあまり移動せず,溶脱,揮散も殆ど無いため基肥施用だけでよい場合が多く,水稲の施肥法では従来から全量基肥施用が採用され,普及している。

 しかし,最近,施肥法の見直しや検討も試みられ,燐酸についても追肥の効果があることがわかってきた。本年4月号では特に穂肥の追肥で効果が認められている11)成果を紹介した。

 鹿児島県農業試験場でも各種燐酸の追肥加用は稲成熟期を2日早進化させ,増収,食味指標の向上とに効果のあることを認めている12)。また,平成5年度の冷害に対しても燐酸追肥の効果は確認されている13)。肥料はいずれも粒状肥料が使用されており,塩基類の効果も想定される。

 一方,流入施肥では溶液の燐酸の穂肥追肥であり,前記事例とは異なった効果があるものと思われる。これらは今後の試験研究機関による解析等から明らかにされるものと期待される。

3)硫酸根含有の意義

 高度化成肥料の硫酸根含有率は,一般的に硫燐安系で硫酸加里を使っているものが40%以上,塩化加里を使っているものが35%前後,苦土燐安系は29%,燐加安系は30%14),T化成550の40%等で多い方に属し,あさひポーラスは22%でありさほど多くはない。一方,水稲-麦の作付体系で5年も無硫酸根肥料を連用すると収量が減少し,それが硫黄欠乏に由来することも明らかにされている。

 また,水稲は燐(0.58kg/10a)よりやや多量の硫黄(0.64kg/10aなど)を吸収することも知られている15)。あさひポーラスの(燐酸:硫酸)は(16:23)である。即ち,あさひポーラス10kgを10aに施用すると,N1.6kgの施肥となるが,同時に硫酸根が2.3kg施用されることになる。

 これらからみると23%程度の硫酸根の含有量は特に問題視することはないと思われる。更に後述のようにあさひポーラスを原料として,尿素や塩化加里等とブレンドしてBB肥料化する動きがある。この場合はこの懸念は無くなるものと言えよう。

4)3要素成分の構成比

 慣行普及技術の水稲の3要素施肥量に対し,追肥としてのポーラスの流入施肥法で問題視されるのは,燐酸と共に窒素に対する加里の比率がある。一般に各県の稲作指導指針等で決められている追肥の施肥法の(窒素:加里)比率は(1:1)が多く,あさひポーラスだけでは(16:10)となり加里が不足の形である。

 これらに対してはポーラスと加里肥料の混合によるBB肥料化等が対応策となろう。燐酸の評価と加里の不足量の補填を考慮して水平型,V型等適当な3成分構成比の易水溶性BB肥料の開発は可能と思われ,新潟県では既に第3表のように尿素,あさひポーラス,塩加の等量混合による流入施肥用BB肥料の試作,検討も行われている。この場合は1袋内の成分が同一となるように配合と袋詰めへの配慮が必要となる。

2.流入施肥を上手に利用する工夫

 前報で流入施肥ができる水田等の条件として①給水量,②水田面積・形状,③均平度,④減水深,⑤畦畔の高さ,⑥灌漑水質の6項目をあげた。これらはどれも変化する可能性のある項目である。また,給水量,面積,減水深の3項目は水深を5cm等一定にする場合に相互に関連する項目である。このため,数多くのメリットのある流入施肥法を上手に実施するため,諸条件の拡大法や注意点を列記する。

1)給水量が豊富なら減水深はやや多くてもよい

 本年4月号の“流入施肥ができる水田の条件”で記した給水量=7m3/時以上,減水深=15mm/日以下等は現在までの試験にもとずく数値で,一つの目安である。

 平成5年に長野県農事試験場では豊富な給水量50m3/時で流入施肥試験を実施した結果,減水深が40mm/日と漏水のやや多い水田でも利用は可能で,第4表のように収量は慣行並などの成果が得られている。これは給水量と減水深は流入施肥の条件として相互関連性があり,かなり減水深が多くても流入施肥の可能な場合のあることを示している。

2)均平と水持ちのため代かきは丁寧に

 代かきは田面を平にすることと水持ちを良くするために大切な作業である。流入施肥では田面の均平と減水深の少ないことが均質施肥の要件であるため,代かきは従来よりももう一回多くする程‘度の丁寧さで作業するのが望ましい。丁寧にすると減水深はかなり少なくなる。

 生育むらは田面の高低差がそのまま出ることが多く,流入施肥の場合も田の特性をよく知っている農家は,生育むらの理由が何故かをよく理解しているようである。なお,基肥から追肥まで数回全部を流入施肥で行う場合は,基肥の生育むらが追肥毎に拡大し相乗的に際立って現れることになるので,一段と均平度が要求される。

3)灌漑水が豊富で自由に使えることが必要

 灌漑水量が少なく,水上側で水を取られ,断水するような条件のところでは,流入施肥は適当でない。中断などすると施肥面積が水口側に片寄るなどの事態を招く(写真1参照)。また,絶えず水の番をするのも問題である。平成6年のように夏季に小雨の場合は水が流入施肥の可否を決める制限因子となる。灌漑水量は多くて自由に使えるのが必要条件である。

4)施肥後の追い水での湛水は深いほどよい

 前報の手引きでは追い水して5cmの水深になったら止めるとしているが,深水は肥料の拡散均質分布に役立つので,比較的短時間で深水にできるところは6~7cmの深さにしてもよい。ただし,制限因子として畦畔の高さがあるため,低い場合は適当な高さとするため畦畔を補強する。

 追い水の灌水中に田の周囲を一回りすると,畦畔の低い所や水漏れのある所はすぐわかるので,補強する。灌水中の周囲の一巡は習慣にするとよい。

5)流入施肥を主にして補正は手まきで

 大区画水田などでは均平な状態に整備されても,前の水路跡や農道跡に地力差があるため数年間はその場所に生育むらがでる場合がある。流入施肥はほぼ均質拡散施肥となるので,生育のよすぎる所にも同様に施肥される。流入施肥は著しく省力的であるがこの生育むらの解消はできず,やはり生育の過剰や不足として現れる。この点はやむを得ない欠点と言える。

 このため生育過剰の部分を考慮しながら,面積の大部分を占める平均的生育相に応じた施肥量で流入施肥し,生育不良の部分を手まき施肥で補正する補完的施肥法が実用性があり,この方法でもかなり省力的であると思われる。この方法では地力のある部分の生育むらの解消は従来法よりやや遅れることとなろう。生育むらが少ない場合はこの方法は省略される。

参考文献

1)山崎伝:カリシンポジウム,98(1963)

2)山崎伝:燐硝安時報 No.1(1968)

3)石塚喜明:農化誌,8,849(1932)

4)石塚喜明・田中明:水稲の栄養生理,50,養賢堂(1963)

5)熊沢喜久雄:農業及び園芸,40,7,10(1965)

6)清野馨:土壌肥料の研究,109,養賢堂(1970)

7)川口桂三郎:水田土壌化学,42,養賢堂(1950)

8)坂上行男・松原弘一郎・吉松敬祐:土肥誌,44,5,183(1973)

9)諸岡稔・葛西善三郎:土肥誌,43,10,337(1972)

10)神野昭一:ポケット肥料要覧,98,農林統計協会(1994)

11)三宅靖人:農業及び園芸,67,10,74(1992)

12)上村幸廣・鳩野哲也・脇門英美:鹿児島県農業試験場土壌肥料部 平成2年度試験成績書,1(1991)

13)編集部:現代農業,12,69(1993);同1,48,;7,174(1994)

14)伊達昇編:肥料便覧〔第4版〕農文協(1990)

15)山崎伝:微量要素と多量要素,187,博友社(1966)